あやとり

今日に限っていつもより早い時間に父が病室に顔を出しだ。

父は優ちゃんを見るなり、険しい表情になっていった。

「優、ちょうどお前に訊きたい事があったんだ。廊下で待っていなさい」

「はい」

病室から出て行った父の後姿を追うように私も後に続いた。

自動販売機でコーヒーを二つ買って、父はひとつを優ちゃんに渡し、ため息をひとつ吐いた。

最近の両親は、ため息の数が多い。

「お前、どこか悪いのか?」

「え、どうして?」

「この前、牧田産婦人科から出てくるところを見掛けた」

優ちゃんの肩がビクッと反応したのを私は見逃さなかった。

「あ、ああ、あのね」

優ちゃんの声のトーンが狂った。

「まさか、妊娠しているんじゃないだろうな」

父の表情は険しいままだ。

「まさか」

即答し、優ちゃんは笑った。


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