あやとり

彼が東京に行くことを、話したときの優ちゃんのことを言おうか、言うまいか、心の中で葛藤していた。

最初は甲斐君と優ちゃんが、別れるように仕向けることで、今まで見ることのなかった優ちゃんのうろたえる姿を見ることが出来ればそれでよかった。

それなのに、なぜか優ちゃんの涙は無駄に出来ない何かを感じさせていたように思った。

それを伝えたら、甲斐君はどうするのだろう。

「優ちゃん……泣いてたよ」

「え?」

聞き取れなかったのか、顔を覗き込んできた彼の顔が近くなって、急に鼓動が早くなる。

「あ、ううん、なんでもない」

瞬間、さっきの言葉が彼に聞こえていなくてよかったと思った。

優ちゃんが甲斐君のことを聞いて泣いたことを知ったら、彼は優ちゃんのもとに行く。

必ず行く。

私の中で、優ちゃんと彼を別れさせようとする理由が変化し始めているのだろうか。


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