あやとり

「知っている男ですか?顔を見ましたか?」

優ちゃんは大きく深呼吸をしてから、今度はしっかりと目を開き答えた。

「顔は見ていません。ニットのような顔面マスクを被っていて。だから誰だか特定できません」

優ちゃんは先ほどまでの表情とは違い、凛として状況を説明し始めた。

「精一杯の力で男の足を蹴っ飛ばし、男が怯んだ隙にアパートの階段を上がって鍵を締めました。男は一度、玄関の前まで来ましたが、道路を走るバイクの音が聞こえたと同時に階段を駆け下りて行ったので、玄関を少し開け、男が立ち去ったのを確認しながら、携帯電話を取り出し、救急車を呼ぼうと電話を掛けました」

 あまりにもしっかり答え始めたので、逆に彼らは首を傾げていた。


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