あやとり


直哉と映画を観に行った帰りに寄った書店で、偶然にも母と行き会ってしまったことがあった。

私の表情から直哉も目の前の女性が、私の母だと気付いたらしい。

直哉は丁寧に頭を下げて母に挨拶をした。

とても爽やかな青年そのもので、私としてはその爽やかさが少々不服なときもあるのだが、母のつぼを完全に捉えたのだ。



それからというもの、母は何かと直哉のことを訊いてきた。

誰の目から見ても、母が直哉に好感を持っていることがわかるくらいである。

直哉は母くらいの世代から見ても好青年なのだ。

だからこそ、出逢いのきっかけがネットゲームということだけは伏せておいた。

印象を悪くさせないためにも、バイト先でのお客さんということにした。

私は直哉のおかげで少しばかりでも母に関心を持ってもらえた。

それは小児ぜんそくで体調を気遣ってくれていたとき以外では初めてのような気がした。

そのほかの面での関心は、いつも優ちゃんに向けられていたことを、私は心底感じていたから、この時初めて優ちゃんと肩を並べたような気がしたのだ。


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