あやとり

そこに優ちゃんが帰ってきた。

優ちゃんは甲斐君を見て少し驚いた表情をしたものの、彼女は今まで私が見たこともないようなやんちゃな微笑みを見せて、甲斐君に歩み寄った。

二人の交わす言葉までは聞き取れなかった。

ただ見ていると、肩に軽く触れる指先や、お互いの言葉に反応して見せる仕草から、優ちゃんと甲斐君が以前から、それもかなり親しい関係だということはすぐに察しがついた。


甲斐君は何度か頷き、左手で自分の鼻をキュッと摘んだかと思ったら、次に優ちゃんの鼻も同じように摘んだ。

優ちゃんは肩を竦めて笑い、甲斐君は優ちゃんに背を向けた。

甲斐君のお尻を優ちゃんが自分のバッグでぽんっと叩く。

振り返り、彼女の頭の上を叩くような仕草をした。

そのまま回れ右をして、彼は後ろ姿を見せたまま、右手を高く〈バイバイ〉と言うように振って歩き出す。

電信柱の影で二人を見ていた私は、心臓がドキドキして止まらなかった。


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