前世と今~記憶の鎖~
「よ、よし!鬼ごっこをしよう!」

優希の提案を却下し、哲夫は無難な遊びを提案する
その提案に、興味無さそうに頷く優希
実際に興味は無いのだろう
大勢でやるから楽しいのであって、2人でやるものではない
もっとも、普通の子どもなら親との鬼ごっこを心の底から楽しめるだろう
親が手加減し、捕まりそうで捕まらない鬼ごっこ
子どもにとっては、走ることも楽しみの一つなのだ

「それじゃ、お父さんが鬼だな!優希、逃げろよ~♪」
「分かった」

子どもより楽しそうな親…哲夫を生暖かい目で見つつ、優希は逃げることにする
子どもの足では、そこまで早く走れないので、ベンチなどの物を使おうと思案する優希
興味はあまり無いようだが、捕まる気はサラサラ無いらしい

「1~2~3~」
(こういう時、小さいって便利やな)

ハンデのつもりなのか、目を閉じ数えている哲夫の声を聴きながら優希は思う
ベンチさえも、立派な隠れ場所になるのだ
大人だったら、しゃがみ込むなどしなければ見つかるが、子どもはそんな事をしなくても隠れられる

「8~9~10!!」

優希がベンチの後ろに隠れ終わった頃、ちょうど哲夫が10数え終わった
哲夫はキョロキョロ辺りを見回し優希を探す
優希が隠れるとは予想外だったのか、あちこちの遊具を探し回る
その様子をベンチの隙間から見る優希

(まぁ、かくれんぼやないから、隠れへんと思ってたんやろな~
でも、姿さらしとったら、すぐ捕まってまうわ)

「優希~~~優希~~~」
「…」

同じような場所ばかり探す哲夫を呆れた目で見る優希
これでは鬼ごっこではなく、かくれんぼで終わってしまう
隠れても、すぐに見つけられる…と思っていた優希からすれば、これは予想外
情けない声を出して、自分を探す哲夫を見て仕方なく姿を現すことにした
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