残存リズム

彼のつむぎ出すソレは、
もはやただの“声”ではなく、限りなく澄んだ“音色”のようだった。


優しく響く、彼のリズム。


唄い終わった彼は少し驚いた顔をして尋ねる。


「なんで泣いてるの?」


私の目からは、頬に筋を作って涙が流れていた。

歌で泣くなんて初めてで不思議な感覚だ。

彼の歌は私の心を完璧な美しさで揺さぶったって、そう感じた。


私は流れる涙を拭わなかった。


「ありがとう。なんか、良かったよ。」


そう言うと歌うたいは柔らかく笑った。
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