君との時間は・・・
愛を知る

知恵・謎謎

俺は手術1時間前に笑美の病室の前についた。けど、なかなか入られへんかった。


どんな顔して入ったらえぇんかわからんかった。頑張れって気持ちはある。


でも、不安な気持ちもあって、その気持ちを笑美に知られたら余計に笑美に不安をあたえてまうかもしれへん。


とにかくは、このままここにいてるわけにもいかへんし、中に入ろう、と思って顔をのぞかせたとき。


笑美が一点を見つめていた。笑美の目に映ってるんは多分・・・花瓶。


何も花は入ってへん。ただの花瓶。その花瓶を見つめる笑美の目はどこか悲しそうやった。


これからの手術のことで不安なんかもしれへん。こんなとき俺には、何ができるんやろか。


「笑美?」


そっと笑美の名前を呼んでみた。笑美が俺の方を向く。笑美の顔に笑顔の花が咲く。


「恵。来てくれたんだね。」


「行くって言うたやろ。あと、一時間やな。」


「うん。手術、久しぶりだな。でも、こんなに緊張したのは初めてかも。」


「なんでなん?今まで緊張とか不安とかなかったん?」


「あったよ。でも、そこまで気にしなかったかな。あの時は、どうせ生きてても一人だし死んでも一人だから、結局どこにいても私が、ひとりぼっちなことには変わりないって思ってたから。」


それでか・・・。あの花瓶を見ながらあんな顔してたんは。


また自分は一人になるかもしれへんっていう不安も抱えてたんやな。気づかへんかった俺の心はかなり痛んだ。


「そうか。・・・今は」


「一人じゃないんだよね、私?」


「当り前やろ。俺がおる。まぁ、春登もな。」


笑美はわかってくれてた。ちゃんと。笑美は一人やない。一人になんかさせへん。


笑美の顔から段々と緊張が解けていってるように見えた。


「恵?」
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