桜花~君が為に~

「それでは、私、仕事があるので失礼しますね」

お茶をぐいっといっきに飲み干して、もってきた盆の上に乗せる。

「あぁ、有難うね、悠輝。
お茶も…それと、話も聞いてくれて」
「いえ、これが俺の役目ですので」

沖田から空っぽの湯飲みを受け取り、それも盆の上に乗せてから立ち上がる。

一人称を『私』から『俺』にしたのは
沖田の世話をするのは"一番組隊士"である『悠輝』の仕事だからだ。

幹部全員に正体を話したとき
悠輝は土方に一つ頼みごとをしていた
『女の悠姫』としてじゃなく『男の悠輝』として扱ってほしい…と
土方も、もともとそういうつもりだったようで
すんなりとその要件は受け入れられた。

だから、今でも悠姫は悠輝として、男装を続け、
幹部以外の人間の前では、一人称を『俺』にして男として過ごしている。

「それでは、失礼します」

ぺこりと頭を下げて、悠輝はその場を後にした。




「本当に、有難う……悠姫」

悲しみを含んだその言葉が
悠輝の耳に届くことはなかった。





風になびいていた最後のもみじが散った
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