桜花~君が為に~

第十九話


しばらく藤堂の胸の中で泣いた後
悠輝は用事があるから…といって彼と別れた。
結局藤堂は悠輝が何故泣いていたのか
その理由を尋ねてはこなかった。

だからこそ、安心して泣けたのかも知れない。

藤堂は、悠輝にとって
本当の自分でいられる唯一の存在だった。


「はぁ…最近俺泣きすぎだよな…」

部屋に帰ってから鏡に向かい
少し赤くなった目元を見て、大きくため息をついた。

こんな姿で彼にあったら
また、何か言われるかもしれない

「悠輝~?部屋にいる?」

よく知った
今一番会いたくなかった…
でも、会いに行かなければならなかった人の声が響いた。

「……」
「入るよ」

何も言わずにいると
少し微笑を含んだ沖田の声が聞こえた。
すっと、音を立てて襖が開かれる。

「沖田さん…」
「ん?」

名を呼ぶと、
彼は変わらない笑顔をみせた

「なんでも、ありません」
「そう?ならいいけど…」

チラッと目を開けて
沖田は悠輝の目が赤くなっていることを見つけた
しかし、それに関して
沖田は何も問いかけなかった
彼女がそう望んでいたから
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