空耳此方-ソラミミコナタ-

炯斗は思わず、自嘲的に笑った。

「…強いな…ことのん」

しかし、言乃は苦々しげな顔をして俯いた。

「…言いたかないですけど、見慣れてるんです」

「?!」

「幽霊の中には、死んだときのままの格好でうろついている人は結構いるんです。私には、どうあっても見えてしまうので…」

「慣れるしかなかったのか…」

悪いことを聞いてしまったと、炯斗も顔を背けた。
言乃は振り払うように頭を振ると、もう一度炯斗を見つめた。

「炯斗くんの目は…きっと他人、いや私のとも違います。もっと精巧で、いろんなものが見える。そうですね?」

「……」

「私が思うに、炯斗くんが見たものは克己さんの痕跡じゃないでしょうか?」

「痕跡?」

言乃は頷いた。言葉に力がこもる。

「たどっていったら克己さんに辿り着いたんです。逆に遡れば──」

炯斗は言乃の言わんとすることに気づいた。

「克己さんの死についてなんかわかるかもしんねってことか!!」

言乃は大きく頷いた。炯斗の目にも力が戻る。
出来ることがある──そう思うと俄然、元気が沸いてきた。

炯斗はバッと立ち上がって言乃を見る。

「よし、行こうぜことのん」

「はい!」

丁度その時、下から二人をせかす声が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせると、あわてて前の一行を追いかけた。



< 162 / 374 >

この作品をシェア

pagetop