空耳此方-ソラミミコナタ-

朋恵は呆れた目で頷き、「そうよ」と答えた。

全く。頼んだ張本人が忘れてるんだから、世話ないわ。
とでも言いたげな視線を炯斗に向けてから郁美からA4用紙を受け取り、机に広げた。

「この島で亡くなったアズサという名前。一件だけヒットしたわ。それがこれ」

数枚を手にとり、炯斗に渡す。
受け取った炯斗は、早速資料に目を走らせた。

「村木 梓(むらき あずさ) 享年20才
自宅の部屋にて首を吊っているのを義弟が発見……」

情報の傍らには顔写真が載っている。

間違いない。あのアズサだ。
しかし、まさか彼女が自殺だとは……。

炯斗は思わず口を押さえる。
その様子をチラリと一瞥してから、朋恵はさらに違う資料を差し出した。

「こっちが彼女の近辺の情報。……見たほうがいいわよ。面白いことが書いてあるから」

「面白いこと? どれどれ……?」

炯斗は素直にその資料を受け取り、目を落とす。

ま……マジかよ…!

そこにはとんでもないことが書かれている。
読み進む炯斗の手を震えてくる。

こんなことがあってもいいのだろうか?

見開いた目を上げると、不敵に微笑む朋恵の顔が飛び込んできた。

「どう? 面白いでしょ?」

「いろいろ教えてもらってない私には話がそんなにわかってないんだけどねー」

「後で教えるって。で、どうなのよ? その感想は?」

炯斗は紙を机に置いて髪をガシガシとかいた。
今朝セットしたばかりの髪の毛がはらりと額にかかり、視界の端でチラつく。

「嘘だろ、って言いたい」

「残念ながら現実よ」


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