憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

今日は、どういう風の吹き回しだろう。ノックの後、まったく入ってくる気配がない。

「いいよ、入って」

キィ、と軋む音がしてドアが開く。
あたしはそちらを見もせずに、果敢にも勇者に立ち向かってくる雑魚キャラに見入っていた。

「なんか用?」

お母さんに、そう声をかけた。

「……あのさ」

ゴトン、とコントローラーを落としてしまう。
その拍子に缶ビールが倒れた。黄金の液体がシュワシュワと床に零れる。

「うっきゃあ」

「なあにやってんだよ、真知」

わたわたと慌てている間に、千秋がさっさとティッシュで片してしまった。

「な、名前くらい名乗りなさいよ!馬鹿たれ!!」

「ご……、ごめん……」

しゅん、とした千秋は、でかい図体してまるで子犬のようだ。
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