憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「おい、着いたぞ、真知!」

「んあ……」

ゆっくりと瞼を持ち上げれば、そこには眉をしかめた千秋のドアップ。
思考は瀕死の状態で、ただ振り落とされないように千秋の腰にしがみついて十数分。風にあたったせいか、気持ち悪さがいくらか和らいでいた。

ぼんやりとその整った顔を見つめていると、両肩を手で掴まれて、ゆさゆさと前後に振られた。

「うぎゃ、ちょ……やめ……!胃の中がシャッフルされちゃう!」

酔っ払いにはとてつもなくこたえる仕打ちに思わず声を上げた。千秋はようやくそれを止めると、くるりとあたしに背を向ける。

「……?」

「人の背中で意識飛ばしやがって」

「っは!」

そこに、小さなよだれの痕。

「うわわわ、ごめん!」

慌ててワシャワシャとハンカチで拭く。

最低だ。これはない。好きな人云々の前に、女子としてありえなすぎる。
朝っぱらから失態を犯しまくりだ。
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