憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「それは、こっちの台詞だよ。これ以上、付き合い続けるつもりもないだろ、あんたも」
固まって動けずにいたあたしに代わり、静かに答えたのは尚だった。
周囲に見せる人当たりの良い"岡崎尚"はいない。無表情で、抑揚の無い声音がシンと静まり返った室内に響く。
「話が分かる人は好きだよ、尚君」
にこりと微笑んだ純子がゆっくりと立ち上がり、尚の前に立つ。薄いピンクのマニュキアが丁寧に塗られた指でそっと頬を撫でる。綺麗に整った顔を確かめるように、純子はウットリとした様子で暫らく尚を見上げていた。
「惜しいなあ。やっぱり、尚君の顔だけは、凄くタイプ。一度くらい、セックスしてあげてもいいよ」
「残念。俺、つまらない人間は嫌いなんだ」
艶やかに笑う尚にカッとなって手をあげるも、それはいとも簡単に遮られた。
ぎゅっと握られた腕を放そうと、純子がもがく。けれど、尚は頑としてそれを許そうとはしなかった。ぐいと引き、わずか10センチの距離で彼女と視線を合わす。
「戦況を見たら?」
表情とは裏腹に、尚の声は凍えるくらいに冷たい。純子の顔が小さく慄いた。
ゴクリと息を呑む。