憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「ねえ、結衣ちゃん」

「私やっぱり出て行く。真知、会ったばかりなのに甘えて沢山迷惑かけてごめんね」

「えっ!どこ行くつもり!?」

帰ると、そう言わない結衣ちゃんにあたしは思わず声を上げてしまった。
鞄に洋服や化粧品などを詰めなおしながら、結衣ちゃんは無言のまま返事をしない。

この3日間で気づいたことは、結衣ちゃんの身体があまり丈夫ではないということだ。
ちらりと見えた薬の袋には、見たこともない難しい名前が沢山書かれていた。

透き通るような肌は、ただ色白だというわけではなかったのだ。

「……尚に、会いたい」

ぽつりと零れ落ちた声は、僅かに震えていた。
ぎゅっと閉じられた瞼。まるで、恋焦がれる女の子みたいだ。

「会いに行こう、一緒に」

「行けない」

「どうして。ここにいたって」

固く唇を噛み締めて、俯く結衣ちゃん。
会いたいのに会えない理由がわからず、あたしはただおろおろと彼女の様子を窺うことしか出来なかった。

その時だ。
ガチャリと、部屋の扉が開いた。

「よう、元気してる?」

にこりと笑う千秋がいた。
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