憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

尚のお父さんは、嬉しそうに笑みを浮かべたあとに、腕時計で時間を確認する。

「それじゃあな、尚。今度、またゆっくり食事でもしよう」

「はい。気をつけて」

本当に忙しそうだ。
数分で尚とあたし達に挨拶を済ませて、そのまま病院を後にした。その背を千秋が、首を傾げながらジッと見つめている。

「……俺、あの人一度見たことあるかも」

不意に、ぽつりと呟く千秋。

「はあ?何言ってるの、千秋」

「いや、絶対そうだ。確か、大学の授業だよ。マーケティング論でゲストスピーカーだったはずだ」

あたしが、思い出せずにいれば、すかさず"真知が殆どサボっていた授業だ"と言って呆れた様子で肩を竦めた。なんっか、ムカつく反応だ。

「葉山章吾は分かる?今ある独立系IT企業のトップだ」

「……まさか、ヒサの親父が、葉山章吾!?あの、長者番付にも常連の!」

こくりと、尚が頷く。
千秋は信じられないという表情で、尚を見つめた。
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