憂鬱なる王子に愛を捧ぐ


ちらりと腕時計を見る。
時刻は、15時30分。この時間、尚は果たして部屋にいるだろうか。とりあえずは駄目元で、エントランスへと踏み入れる。

固く鎖された自動ドアの前で、部屋番号を押し応答を待つ。
けれど、やはりいくら待っても繋がることはなかった。どうしようと、僅かの間その場でうろうろしていれば、良いタイミングでこのマンションの住人らしき男女が、内側のエレベーターから降りてきた。

楽しそうにお喋りをしながら、自動ドアを開けて外へと出て行く。そのふたりの横を何食わぬ顔でサッとすり抜け、マンション内へと入ることに見事に成功した。きょろきょろと辺りを窺いながら、エレベーターに乗り込んだ。

いたるところに設置されている監視カメラには、随分怪しげな人間に映っているに違いない。

部屋のインターホンを鳴らす。
ピンポンと乾いた音が響く。

―やっぱり、留守か。

随分気を張ってここまで来たから、なんだか酷く拍子抜けして、ずるずるとその場に座り込んだ。肩に下げていたボストンバックを背もたれにして項垂れる。
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