憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

窒息してしまう位に、強く枕に顔をおしつける。
間に合った、よかった。安堵と共に、涙が次から次へと溢れだす。

千秋の言葉は、あまりに唐突すぎて、あたしにはそれをきちんと受け止めることが出来なかった。
じわり、じわりと少しずつあたしは千秋の思いを飲み込んでいった。


枕が、涙で湿っていく。13年間、思い続けて思い続けて、結局は失ってしまったことを。


それにふと、気づいた。

どこか、恋している自分に安心していた。誰よりも千秋の近くに居られることで満足していた。それを失ってしまった今、どうしたらいいかあたしにはわからなかった。

どうせなら、千秋と一緒に酔い潰れて忘れてしまいたかった。気づかない振りをしてしまいたかった。けれど、思い知ってしまった今それも叶わない。

ずっと一緒の道を歩いてきたと思い込んでいただけ。

「……ぅ」

張り詰めていたものが途切れた瞬間、訪れたのは猛烈な吐き気。
よろよろと身体を起こしながらトイレへと向かうあたしを、現実は悲劇のヒロインなんて甘ったれた役にはしてくれないのだ。
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