大人的恋愛事情
 
鳴り響く着信音に胸がドキドキと嫌な音を立てる。



冷たいのか熱いのかわからない藤井祥悟の黒い瞳を、訴えるように見つめるしかできない。



真っ直ぐに私を見ていた男が、小さく溜息を吐きながら、持っていた箸を静かにカウンターに置いた。



「帰るって言ったり、泊めてって言ったり、随分都合よく使われてるな」



そんな言葉を低い声で言われて、いよいよ不安に駆られる。



確かにそうだけど、今帰るわけには……。



「さっきまでは、純粋に泊めてもいいと思ってた」



そう言う藤井祥悟が、私の手から携帯をゆっくりと取り上げて、それを元の場所に静かに置く。



視線でそれを追うと、鳴り止む着信音。
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