大人的恋愛事情
 
長いロングコートの両ポケットに手を入れ、掻き合わせるようにしながら、そう言われて少し笑えた。



そう言えばいまだに携帯も知らない藤井祥悟。



私を好きだと言ってくれる藤井祥悟。



社内一、モテるらしい藤井祥悟。



そんな男が……。



「なにか用事でも?」



やっぱり後ろめたい私は、視線を外してそう聞く。



「そうだな」



「なんだったの?」



「いや、たいしたことじゃねえけど」



「ないけど?」



「声……、聞きたいと思って」



そんな言葉にいよいよ後ろめたい気分になり、歩道に視線を落としながら小さく溜息が出た。
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