大人的恋愛事情
「乗らないのか?」
思わず足を止めている私に、穏やかで柔らかい笑顔を見せる。
営業スマイルとでも言うに相応しい、その笑顔は癖がなく嫌味がない。
柔らかい少し茶色い髪、優しげでどことなく品のある綺麗な顔は、甘い雰囲気を漂わせる。
「珍しいね、こんな時間に社内にいるなんて」
営業の人間は基本的には外回りが多い。
「またすぐ出る」
私がエレベーターに乗り込むと、軽く答えた圭が総務のある12Fのボタンを押す。
エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。
二人だけの密室に、何となく落ち着かない気分になっていると、圭が操作パネルの前で壁に凭れた。