crocus

「俺ねぇ……暗くて……狭いとこ、ダメー……なんだよねぇー……」

顔を上げて恭平さんの横顔を見れば、真っ直ぐ前を見据えたまま「だからってー!」と続けた。

「若葉ちゃんのせいじゃねぇから!俺がただのヘタレなのよ。……な?だから気にすんな?」

視線は運転に集中したまま、大きな手のひらが伸びてきてクシャクシャと髪を乱した。

恭平さんの腕はコーヒーのいい香りが染み付いていた。

「今度は絶対に絶対に気をつけます!」

「ははっ、心強ぉい。……でも呆れるだろ?もう、俺24だぜ?」

恭平さんはどこか諦めたような自嘲的な笑い方をした。若葉は硬く真面目な表情でブンブンブンと勢いよく頭を振る。

「まさか!そんなこと!誰にだって苦手なものはあります……。それは弱さなんかじゃなくて、恭平さんらしさの1つです!あっ……とは言え、恭平さん自身辛いのに、軽々しくごめんなさい……」

「……ふっ、ごめんな?俺が情けないこと言ったせいだよな。若葉ちゃんと話してると励まされることばっかだわ……サンキュな?」

若葉は思いとは裏腹に上滑りする言葉が悔しくて、情けなくて、両手できゅっと握りこぶしを作った。

結局は自分の言ってることなんて奇麗事に過ぎない。

恭平さんの抱えている重さは、恭平さんにしか分からないのだ。世間知らずの小娘が励まそうだなんて、おこがましいのかもしれない。

それなのに笑ってありがとうと言ってくれる恭平さんは、本当に優しくて……。

それを目の前にすれば、自分が恥ずかしくなった。

そんな時。もうそろそろクロッカスに到着するというところで、いきなり狭い路地に猫が飛び出してきた。

「わっ!」

「きゃっ!」

恭平さんが急ブレーキをかければ、キィーっと車は悲鳴をあげた。


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