crocus

「私もいただきます」と、手を合わせてカップを口に運ぶ若葉ちゃん。

「あっ、それ!」

「ゔっ……にがい」

いつも若葉ちゃんには砂糖とミルクを多目に淹れたものを飲ませているから、だいぶ苦かったはず。

入れ忘れを誤魔化すようにへへっと照れ笑いして、サラサラと砂糖の袋を破る若葉ちゃんに疑問をぶつけた。

「どうして……俺に淹れてくれたの?」

若葉ちゃんはスプーンでカップをかき混ぜながら、伏し目がちに優しく答えた。

「……コーヒーの木の花言葉って『一緒に休みましょう』なんですよ」

ゆらりと頭を上げた若葉ちゃんは、いたずらに成功した子供みたいに無邪気で可愛い笑顔をして言葉を続けた。

「だから『たまには恭平さんにも休んでもらおう作戦』です!」

人差し指をビシッと立てて、目を爛々と輝かせている。

ひねりのない作戦名と同様に、その想いも真っ直ぐなんだろうなと思うと、こちらが少し照れ臭い。

「恭平さんはいつもお客さんや、私たちにコーヒーだけじゃなくて『一緒に休みましょう』っていう時間も提供しているんです」

若葉ちゃんはギュッとカップを両手で包み込むと、言葉を丁寧に紡いだ。

「そのことに、救われたり、励まされたりした人がたくさんいるはずです。恭平さんのコーヒーは、私をいつも笑顔してくれたから……、だから……っ」

「若葉ちゃん……?」

カクンと若葉ちゃんの顔は俯いてしまった。

「だからっ、恭平さんにも笑ってほしくて。元気に……なって、ほしくて」

少しだけ見える頬から雫がツーっと流れていくのが見えた途端、恭平は若葉ちゃんの腕を引いて抱きしめた。


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