crocus

そんな哲平の母親が入院したのは、つい先週の出来事。

母さんと見舞いに行った時、何も分からないフリをしたけれど、体調は思わしくないようで、すぐには退院出来ないようだった。

今は帰りが遅い哲平の父親の代わりに、夕飯時だけは哲平の家にお裾分けをしている。

一緒に食べようとも誘ったけれど、弟の颯人(ハヤト)が人見知りが激しいから…と哲平の強い主張で敢えなくそれは諦めた。

そうして今日も保育園に迎えに行く哲平はすごく兄貴らしくて、ヘタレのくせに…だなんてもうバカに出来ないほど逞しかった。

今、思えばしっかりするしかなかったのだと分かるけれど、その時の俺は『俺だって逞しくなるぜ』とライバル意識を勝手に燃やしているばかりだった。

成績、運動会、サッカーのポジション争い、比較されることが家庭では日常茶飯事で大体の結果が笑いの種にされたせいだと思う。

「しゃ…終わりっと!」

あちこちに散らばっていたサッカーボールを集め終わると、ゴロゴロとキャスターを回してサッカー用具室に向かう。

辺りを見渡しても部員は、誰1人いない。

「薄情な奴らばっかだな…」

それもそのはず、今日は地元の夏祭りがあるのだ。一度帰って仕度を済ませてから、部員同士かクラスの友達と待ち合わせをしているんだろう。

毎年恒例となっていた哲平の家族と一緒に行く予定は、哲平の母さんの事情もあって今年は家で見ることになった。

繰り返される『また来年ね』の言葉に、回復への期待と未来が存在していることの願い、そんな想いが込められていて、なんだか寂しい気持ちにさせた。
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