crocus

無償に甘えたくなってしまった若葉は、オーナーさんの胸にぽふっと抱きついた。相変わらずオーナーさんは花のような優しい香りを纏っている。

「も~~~うっ、若葉ちゃん!!」

「オ……オーナーさん、くるしっ」

この細い腕のどこにこんな力が……!

オーナーさんに強く抱き締め返された若葉はギブギブと背中を叩いた。だが拘束は解かれない。

「いい?あんた達?私がいない間、若葉ちゃんに手なんか出してごらんなさい?すぐにコレ!だからねっ!?」

上を見上げれば、オーナーさんは首元を親指で横になぞっていた。……つまり、クビだ。

「オーナーさん!それは……!」

その可能性はない、と否定しようとするも、すぐに若葉の声は背後の男性陣に掻き消された。

「無理無理無理無理ー!」

「ちぇっ、せっかくオーナーがいない内に……って思ってたのによぉ」

「今出さなくて、いつだせっての……なぁ?」

「黙れ、三馬鹿!!」

「ふっ……」

誠吾くん、琢磨くん、恭平さんをまとめて三馬鹿と呼んだオーナーさん。それに対して吹き出したのは橘さんだ。みんなの視線に気づいて釈明した。

「ごめんごめん、あんまりにもしっくりきてさ。ぷくく……」

「んだと!?くぉらぁぁ!?」

「でも、まぁ……」

橘さんは涼しい顔をして、食って掛かってくる恭平さんの額を人差し指で押さえながら、一際落ち着いた声で話した。

「僕はその子を構う予定はないから、安心してよ。監視役なら、要に任せたらいいし」

仲良くする気はないと、清々しいほど断言されてしまうのは、なんとも切ない。

小さくなった若葉に気づいたのか、オーナーさんがやや見透かしたように物を言った。

「バカたれ。若葉ちゃん舐めんなよっ!そうやってても、スイッチ入ればあんたが一番危険なのよっ!絶対に近づくんじゃないわよ!バーカ、バーカ!……三馬鹿もよ!?バーカ、バーカ!」

「……オーナー」

「何よ、要!もちろん、あんたもダメだからねっ?バーカ、バーカ!!」

「……バス来てますよ」

「…………」

子供のように牽制していたが、コロッと無表情に切り替わったオーナーさん。

バスの運転手さんが白い目で、そんなオーナーさんの背中を見ていた。


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