crocus

閉店時間になった後、誠吾と双子くん達は外に飲みに出かけた。積もる話もあるだろう、今日は戻りが遅いに違いない。

残ったメンバーは、いつものように銭湯に行き、いつものように恵介が作ったまかないの夕食を食べた。

後片付けや、明日の仕込みを済ませた頃には、時計の針は22時を回っていた。随分とゆっくりしてしまったようだ。

急いで自室に戻って、大事な休息の時間で何をしようかと考えを巡らせた。時計の秒針が聞こえるほど、静かなひととき。こういう時間は好きだ。

携帯を何気なく触っていると、木製の扉をノックする音が控えめに聞こえた。ダラダラとベッドのズプリングを軋ませながら体を起こして、扉に向かった。

琢磨がゲームの誘いにでも来たのだったら、それに付き合ってやってもいいかなと暢気なことを思っていた。

だから余計に扉の向こうの意外な人物に驚いた。

「…なにか用?」

なかなか出さない部分の低音が出たので、その重く冷たい響きに心の中で自嘲した。でも、目の前の人物がビクッと肩を揺らしたので、すぐ苛立ちに変わった。

そんなに怯えるなら来なければいいのに。恵介はそんな思いをため息に変えて吐き出した。

「お休みの所すみません、橘さん。あの…さっき下に降りたら、厨房にこれをお忘れだっ…」

恵介は話し終わる前に、彼女が手のひらに乗せていた緑色の砂が入った砂時計を乱暴に取り上げた。

恵介は自分の無意識の行動に、激しく後悔した。

さっき弱みを見せたくないと誓ったばっかりなのに、冷静さを失ってしまった。これじゃあ、まるで僕がこんなものを大切にしてるみたいじゃないか。

そんなわけがない。ただ自分の物を女に触られたのがむかついただけだ。
< 276 / 499 >

この作品をシェア

pagetop