crocus

ため息に近い息を吐き出し、父親が眠っているという部屋の扉を静かに開いた。

無駄に広いベッドの中心に膨らみがあり、掛け布団が呼吸に合わせて上下している。

近寄っても、神経が敏感で寝つきの悪い父親が起きる様子はない。むしろ父の寝顔を見たのは初めてに近く、奇妙な光景に胸の奥にざわつきが生まれた。

父親の顔は、最後に見たときよりもだいぶ細くやつれていて、日頃の多忙さが祟ってか、シワを深く刻んでいた。

幼い頃からずっと支配されていた父親の印象は強烈で、俺が見上げていたのは父親というよりも、トップに君臨し続ける帝王の姿だった。

それが今、目の前にしている男の寝顔は無防備なほど穏やかで、こんなに小さかっただろうかと、世間と変わりない年相応の風貌に戸惑いを覚える。

今まで恐れ、憎み続け、トップの座から完膚なきまでに叩きのめして蹴落としてやろうと、そんな思いから必死で努力してきたというのに……、なんだこの姿は。拍子抜けだ。

あの血の滲むような日々は、一体なんだったのか…。

父親の悔しげに歪む顔を拝む日を夢見て登ってきた階段が、音も崩れていく音がする。行き場のない浮遊感が、全身を脱力させていく。

その影響かギシッと軋んだ椅子の音で、父親はゆっくりと目を開いた。そして要は驚いた。まだ彼の瞳には依然として光が宿っていたからだ。

< 331 / 499 >

この作品をシェア

pagetop