crocus

追跡中のハイヤーが左ウィンカーを点滅させた。曲がった路地は狭い道路。下手に追うと怪しまれる可能性があった。

一度、目的の道路を少し過ぎた路肩に停車してもらう。ナビを見て合流できる道を探していると、雪村さんが声を上げた。

「あっ!あの車、停まりました」

雪村さんの言葉に反応し、窓から確認しようにも車の横は壁しかない。一体何を見て言うのか、雪村さんを見れば後部座席に跪いている。

「ふっ。カーブミラーか」

カーブミラーに映るは、赤いランプを灯すハイヤーがすぐ側の駐車場に停めようとしている光景。

そのまま様子を伺っていれば、男が1人建物内に入っていく。

「僕たちも降りる?」

「いや…カバンを持っていなかった。きっとまたすぐに帰ってくるはずだ」

状況判断した要が推測を話すと、恵介は口笛を吹いた。

「すごいや。じゃあ、今の内にギリギリ、ハイヤーさんが確認出来る場所に移動しよっか」

「頼む」

車はハイヤーが曲がった道路へと進入し、ちょうどいい場所に空きビルを発見したので、そこの駐車場からハイヤーが停まる駐車場を監視した。

「ってゆうかさ、ここまでしてるんだから、そろそろ誰を追ってるのか聞いてもいいー?」

運転席で出来るだけバレないように縮こまる恵介が、にわかに苛つきながら言う。

それもそうだ。待たされ続けた上に、今度は追えだなんて、俺なら黙って助手席を蹴飛ばして谷底に落としてるだろう。

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