crocus

膝がガクガクし、瞬き、呼吸すらも許されない気がした。それが永遠に続くような錯覚に囚われ、疲労感がドッと押し寄せる。

しかし父さんの方が先に視線を外し、遠い目をして呟いた。

「俺は俺が守りたいものを守っただけだ。子供が余計な詮索をするな」

「あぁそうかよ。そんなに自分の会社が大事かよ…。そうやって俺の大事な人達を駒のように切り捨てるのなら、俺はあんたの望むようにはならない。あんたなんか父親でもなんでもない!」

自分でも驚くほど、憎しみがほとばしる罵声を浴びせた。一瞬、良心が後悔を訴えたが、それを目の前の人物は鼻で笑い飛ばした。

それを見て思い知らされた。大事なものも守れない自分はなんて無力な子供なのだろうと。

母さんも、鮫島さんも、自分も同じ立ち位置。明日は我が身なのだ。

それから鮫島さんが去った後、要は昼夜問わずに政治、経済、司法と手当たり次第に猛勉強をした。

高校は父親の金に世話になりたくないがために、奨学金で普通の公立高校へと入学し、独学で私立の大学入試を首席で入学するために励んだ。

友達、恋人などは作ろうとも思わなかった。心のどこかで自分と親しい人間は、有無を言わさず父さんの采配1つで人生を狂わされるかもしれないと恐れたからだ。

これ以上信頼する人間を失う痛みを味わいたくないからというのも、本音だった。

当時の要を立たせていたのは、おどろおどろしい復讐心だけだった。

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