crocus

そんな若葉に気づいたのか、背中をトントンと叩いてくれたオーナーさん。大丈夫、と励ましてくれている気持ちが伝わってきて、単純なことに本当になんとかなる気がしてきたから不思議だ。

「困っていたら力になってあげて頂戴。……というわけで、まず自己紹介しなくちゃ始まらないわよね。話によれば昨日、若葉ちゃんが泊まった時に、個人の間では済んでるかもしれないけど……」

オーナーさんはそう言うと、若葉から向かって一番左端にいた上田さんを指名した。

「しゃっ!……はい!」

上田さんは軽く気合いを入れた後、一歩前に踏み出し、宣誓を始めそうな勢いで右手をシュッと高く上げた。

「自分は上田恭平ですっ!高校までは、サッカー一筋でした!今は立派なバリスタになるべく修行の日々です!えー……っと、コーヒー飲みたくなったら、いつでも淹れてやるからよ!」

上田さんは最後に「よろしくっ!」と口を尖らせたまま、親指を体の前で付き出した。どうやら上田さんはそのサインが癖のようだ。

上田さんは茶髪がとても良く似合っていて、私服として着ているのはサッカーのユニフォーム。赤と黒のラインが入った国はどこだっただろうか。それもさすがサッカー一筋だったとだけあって、とても似合っている。

本物のバリスタさんのコーヒーを飲めたのだと感動しつつ、いつも場を和ませてくれるひょうきんさに自然とこちらも笑顔になれる人だなと感じた。


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