crocus
鮫島さんは対面しているソファーの1つに腰掛けて、慣れた手つきで煙草を吸い出した。
ふぅーっと白煙と共に息を吐き出す鮫島さんの近くに寄りながら、努めて落ち着いた声で尋ねた。
「…煙草、お吸いになるようになられたんですね」
「ん?…あぁ、いや、成人してからずっとだよ。ストレスを強く感じる立場だから…止められなくてね」
成人してからということは、要と過ごしていたあの時も既に愛煙家だったということになる。自分の目を疑ったのは、当然見たことがなかったからだ。
要が煙草が大嫌いと知っていたから、我慢してくれていたということなのだろう。と、鮫島さんに再会する前ならすんなりと、それが鮫島さんの人柄だと理解しただろう。
でもいざ彼を目の前にすると、そのの我慢は、要のためになどという感情論ではなく、そうせざるを得ない徹底した他の思惑があるように思えてしまう。
それは考えすぎだろうか。14歳の自分は他者の温もりを求めていたために、鮫島さんの姿を美化していただけで、今、目の前にいる鮫島さんが本来の姿なのだろうか。
どっちにせよ当時の鮫島さんの面影を見つけることが出来ないことに、ひどく寂しい気持ちになった。
鮫島さんを見つけた瞬間、まだ父さんに縛られていたのかと思ったのだ。そうして、大人になった今、今度こそは助けてあげれるかもしれないと意気込んでいたのだ。
そんな思いは独りよがりの傲慢だったのだろうか。鮫島さんに必要とされたいと思っていた要は、その空回り具合に羞恥心が込み上げてくる。