あの子の好きな子



「日誌って個性出るよね。適当な人と、しっかりした人と、ふざけちゃう人」
「お前は間違いなく適当派だな」
「そんなことないよ」

そんなことないと言いつつ、本来なら私はぶっちぎりの適当派だ。だけど日誌の今日の担当のところに、広瀬森崎と並んで名前を書けることが嬉しくて、今だけは私はしっかり派なのだ。

「今日の欠席者・・・なし、と」
「それ篠田に見せてサインもらえば帰っていいんだろ」
「うん、早く行こう」

通常、日誌を届けに行くなんて二人いる日直のうちのどちらかが担当するから、いつもこの時間になると日直同士がじゃんけんをしている光景をよく見かける。でも私はなるべく広瀬くんと一緒にいたくて、じゃんけんの提案を避けて自然な流れで一緒に行こうとした。広瀬くんは一瞬「俺も行くの?」的な表情をしたけど、文句は言わず来てくれた。私は広瀬くんの片想いを知ってから、ポジティブになったし少し大胆になったと思う。

「失礼しまーす」

ご機嫌な気分のまま職員室の扉を開けたけど、いつもの篠田先生の机には誰もいなかった。机に貼ってある時間割を見る限り、6限にE組で実験の授業が入っているから、まだ準備室あたりにいるのかもしれない。

「準備室見て来よう、広瀬くん」
「ここに置いておけばいいんじゃないの?」
「そ、そうだけど・・・いいじゃん暇だし、今日バイトなの?」
「いや・・・」
「行こう、ね!」

もう少しだけ、日誌という魔法のアイテムの力を借りて広瀬くんと一緒にいたい。私は前向きになった代わりに、やっぱり少し強引で自分勝手になった。


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