青い空のかなた
花火の記憶
−グー

(腹減ったー。ミートスパでいいや。何か雑誌でてるかなぁ。)
ミートスパ片手に本棚へ。
「あっ、『ぴあ』でてる」。表紙には、
「花火大会特集…」

初めての食事以降、私たちは度々会うようになった。週末仕事終わりに彼がアパートに迎えに来て、それから出かける。会うのはいつも金曜日の夜。食事に行ったり、映画を観たり、その後はまぁそれなりに…。

ある日、街で花火大会のポスターを見かけた。

「花火大会かぁ。」

無性に彼と行きたくなった。

「でも土曜日だぁ…。」

ちょっとわがままを言ってみた。

「今度の土曜日、花火大会に行きたい。」
「土曜日かぁ…。いいよ。」
「ホントに?!」
「ああ」
「うれしい!タコ焼きでしょ、とうもろこしでしょ、」
「おいおい、花火より食い物かよ。」
「ウソウソ、花火もちゃんと見るよ。」

大会当日の夕方

「花火といえばゆかたでしょ!」
と言っても、自分で着たことはナイ。そこで本屋に行って、着付けの本を買って来た。

「こうなってー、この帯をこっちにやってー、あれ?なんかちがう−!」
四苦八苦、悪戦苦闘の末

「やっと着れたー。」
鏡の前でくるりと一回転。
「うん、完璧!」

時間は6時17分。この季節の6時はまだ明るい。 彼がもうすぐ迎えに来る。

「外にでて待ってよー。」

−カランコロン

新しい下駄の音にちょっとウキウキする。木陰に立って、初めてのゆかた姿に彼が何て言ってくれるか考えていた。ふと腕時計を見る。約束の6時半を過ぎていた。
急に不安になる。

(6時半だったよねー。あれ?7時だっけ?ちがう。6時半だよ。まさか来れなくなった?だったら…)

あれこれ考えてるうちに目の前に車が止まった。

「おまたせ。」
「おそい!」
(よかったー。)
「悪い。すっごい道が混んでて。」
内心ホッとしてるのを顔に出さないように、少し怒った顔で
「何かおごって下さいよ!」と言いながら車に乗った。
「いいよ。焼きそばでもタコ焼きでも。」
「テキ屋、制覇してやる。」
「まぁまぁ、機嫌なおして。せっかくのきれいな浴衣がだいなしだよ。」
「ゆかたかよ!」
「ウソウソ、よく似合ってるよ。」
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