彌久抄
短編読み切りです。
 おなかの上でなにやら動く生暖かい肉がある。
 隣では無心に腰を動かす慎治と体を反らせて捩じる香奈。私は虫の動きを観察する目でただそれを眺めていた。六畳の部屋は昼なのに雨戸を締めきっていて、どこまでも終わらない夜のまま。汗とか息とか煙草とか、色んな匂いが混ざり合って漂って、でも吐きそうなのはむしろ非合法な葉っぱを吸ってたせいだった。冷たい板の間に寝かされて頭は醒めるばかり。今私にしがみ付いているのは誰だろう。頭を撫でているのは誰? どーでもいいか。視界の端で力尽きた慎治が、こんな私をニヤけた顔で眺めてる。こーゆーの乱パって言うんだろうな。香奈に聞こうと思ったけど、私の手を舐めるのに熱中しててそれどころじゃないみたい。やがて私の体はみんなの手で曲芸師みたいにねじ曲げられた。それを見て慎治は、いや、香奈も一緒に、奇声を上げながら馬鹿笑いする。当たり前か。こんな間抜けな格好。
 慎治の部屋にはいつも同じ顔ぶれの男友達がいた。やがてみんな疲れてSEXに飽きた頃、狭くてカビだらけのバスタブに香奈と体を寄せ合ってシャワーを浴びる。香奈はいつも私の体を隅々まで綺麗にしてくれた。私は子供みたいに言われた通り手を上げたり足を上げたりする。足の指の間に指を滑り込ませて洗ってくれた時、擽ったくて、背中が壁にくっついて、冷たかったけど気持ちよかった。
 でも私は、こんな毎日、もう終りにしなきゃって思う。

 夕日色に染まるモノレールは、バス通りの渋滞の上を滑るように走る。さっきの葉っぱがまだ残っているのか、ちょっと気持ち悪くなった。私はぼんやりとした頭で、肩を並べて座る香奈を見た。香奈は窓の外を流れる竹藪をじっと見つめている。
「あのさぁ、もうあの人たちと遊ぶの、よさない?」
 思い切って口に出してみた。振り向いた香奈の視線が刺さる。
「やっぱ良くないよ。いつも葉っぱ吸って、みんなでエッチな事ばっかして」
「彌久は、嫌なの?」
 香奈が私の手を握った。私はそれを強く握り返す。イヤじゃないけど……。
 高校の仲間たちと遊んでもつまらないからと言って、大学に通う慎治たちを紹介してくれたのは香奈だった。街でナンパされたらしい。私も彼らと遊んでいると、大人になった気分で悪い気はしなかった。
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