カテキョにぞっこん!

陽サマは不意に立ち上がる。

照れを隠すつもりだったのか、真面目な雰囲気に戻って……



「来週からは新学期です。時間が夜に変更するので、確認しておいてください。……由利さん?」



だけど私は、何も言葉を返さずに一人で坂を降りた。



私も今の顔は見られたくなかったし


陽サマも少し戸惑った感じだったけど、別に追いかけてくることもなくて。




この日はもう、何も口を利かないまま終わった。











窓の外を吹く風も、
少しは変わったんだろうか。


聞こえてくる音はもうセミの声なんかじゃなくて、
秋を伝える虫の音。

夜の色がその雰囲気を一層幻想的なものにして、私の気持ちを切なくさせる。



短く感じた夏休みはあっという間に過ぎて。

私はまた、陽サマの隣で、陽サマのいる空気にドキドキしながら問題を解いていた。




以前のような、ワクワクはしゃげるドキドキなんかじゃないよ。

もっとお腹の辺りが苦しくなるような、重くて辛い、ドキドキなの……





「由利さん、そこ違います」



「…………」



あれから私はずっとこの調子。

声を出すこともしないで、私はその問題を消してやり直した。



変だよね。
なんだかわからないけど、つい反抗的な気持ちになってしまう。

陽サマを、
困らせようとしてしまう。




恋って……こういうものなの?





「ちょっとやり方が違います。僕がやるので少し見ててもらっていいですか」




ほんのちょっと私の様子を伺いながら、それでも陽サマはいつもと変わらなくて。


私が見えやすいように、ノートの向きを調節しながら問題を解いていく。



陽サマのそんな仕草に、私はまたドキドキするくせに

それを見ようともしないで目を逸らして……




大人な陽サマに対して、私はすごく子供だ。




恋なんてすること自体

間違ってるんだ。







< 25 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop