珈琲時間
12/10「ろくな男じゃありません」
 夕方の道路は、どうしてこんなに混雑するんだろう。
 前にも後ろにも右にも左にも、ついでに斜めにも、見えるのは車ばかり。
 30分で数メートルしか進めないなんて、車に乗っている意味が全然ない。

 『東京に帰って来た。今から、5分くらいでおまえの家に着く』

 そんなメールを送ってきたのは、確か海外で仕事をしている(と、この前友人から聞いた)大学時代の友人だった。
 お昼休みで、丁度お弁当を食べていたところだったので、慌てて返信しかけて。ふと、我に返った。

 (なんで、秋原がうちに来るわけ?)

 メールの送信者、秋原は、確かに結構仲の良かった、大学時代の仲間だ。
 けど、卒業してからは一回も会ってないし、一人暮らしを始めたあたしの家だって知らないはずなのに。
 「戸塚さーん? あ! もしかしてエイプリルフールメールですか?」
 携帯を握ったまま固まったあたしに、後輩の彩菜ちゃんが「あたしも朝思いっきり引っかかっちゃいましたよ」と笑う。
 そう言われて、今朝めくったカレンダーのことを思い出して、納得する。

 「……そっか、今日って4月1日だっけ」

(危ないなぁ。引っかかるところだった)

 毎年懲りずに繰り返される嘘に、どうしてこうも引っかかるんだろう。
 大学時代何度も思ったことだった。

 (そういえば、大学に通ってた間、毎回秋原には騙されてたなぁ)

 2年生のときは、切羽詰った声で「100億円入ったバックを拾ったんだけど……どうしたらいいと思う?」と相談され。3年生のときは、実は結婚していて、昨日子どもが生まれたから祝えと脅され。4年生のときは「すみません、誰ですか?」と記憶喪失のフリをされ……。
 騙されるあたしもあたしだけど、いつも何かしでかしそうな奴だったから、なんでかいつも「え? は?!」と真面目に驚いて、笑われてた。

 (……ここ数年全然連絡なしで、こんな日にメール送ってくるなんて)

 よっぽど暇なのか、それともターゲットにしやすかったのがあたしだったのか。

 (今回は騙されないんだから)

 そう思って、返信せずに携帯をしまった。
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