天神学園高等部の奇怪な面々ⅩⅢ
アリスカ・テフレチェンコ、嫌な予感に怯える
「もしもし、千歳ちゃんっ?」

天神女子寮、アリスカ・テフレチェンコは自室から携帯をかける。

折しも生徒指導と体育教師の愛妻がデートした日の事である。

『そうだよぉっ。アリスカちゃん、どうしたの?』

「あのさぁ…」

努めて冷静に。

しかしその形のよい唇からこぼれる声は、微かに震える。

「万里って今日何か予定あるって言ってた?」

『ううん、なーんにも。あ、でも今はどっかに出掛けてるよ』

「…………そっか」

その声はますます勢いをなくす。

『どうしてぇ?』

「……実は……実はさっき……」

アリスカの声はますます震える。

見てはならないものを見た幼子のように。

「啓太と万里が一緒に歩いてるのを見ちゃって…」

直後、息を呑むような不幸少女の気配。

「本当は今日、二人で買い物に行く筈だったんだけど……昨日の夜向こうからドタキャンされて…………なのにどうして万里と…?」

私っ、もうどうしたら良いか…。

そう呟いて顔を伏せるアリスカを、不幸少女は必死に慰めた。

親身になって心配してくれるその声に、勇気付けられるアリスカ。

その電話の向こうで…。

他人の不幸は蜜の味。

不幸少女が、腹黒く薄ら笑いを浮かべているとは知らずに…。

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