spiral

「入学式終わったら、会社に挨拶に行くんだったか」

「うん。主任さんがおいでって」

今日は明日から仕事だから、挨拶がてら行くことになってる。

「食事の時間までは帰るから」

「おう。みんなで飯食いに行こうな」

「楽しみね」

普通の会話。これが最近は当たり前で、ついこのあいだまでなかったもの。

「ん?どうかしたか」

思わず二人の姿にぼんやり見入ってたようで、お兄ちゃんが不思議そうにあたしを見る。

「んーん」

首を振って、「早く行こうよ」と先頭を歩く。

このわずかな期間で、いろんな普通を思い出した。

「変な子ね、マナって」

クスクス笑う心さんに、へへと笑って返す。

空を仰ぎ、揺れる枝を見て呟いた。

「桜、まだ咲かないね」って。

「そうね、今年は寒いもの」

「早く咲かないかな」

はぁっと息を吐くと、うっすら息が白い。

「なんかまだ春じゃないみたい」

手をこすり合わせながら歩く、学校までの道。

行けないと思ってた高校。仕事も見つかった。仕事が見つかった時、思った。

もしかしたら、ママの大変さを理解できるかななんて。

引っ越して学校も変えて、受験して。

ママはずっとその間、あたしに関わることはなかった。

でも伊東さんにママが聞いてきたこともないらしい。

「聞いてこないものを、逆に聞くのも疑われそうでね」

そういって、伊東さんから話を振ることはないと言ってた。

ママはあたしがあのままどうになかったって思ってるとか?

そうじゃなきゃ、あんなことしてきたんだもん。きっと捜すよね。

「……はぁ」

晴れの門出の日。あたしは、大きく息を吐きながら校門をくぐった。

教科書を受け取り、その重みで本当に入学したんだって実感した。

伊東さんが泣いてたのが、嬉しくて恥ずかしくて。思わず笑顔になった。

< 46 / 221 >

この作品をシェア

pagetop