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「────ただいま戻りました。お嬢様」
もう三十分以上が過ぎたのね。
動かなくなった携帯電話はクッションに放り投げてある。
柏原は、大きな荷物を床に置く。
「部屋が大分暖まりましたね。よかった……夜も難なく過ごせそうです」
着ていた真っ黒のコートのボタンを丁寧に外して、ジッパーを下げる。スルりと腕を抜くと、そのままコートをハンガーにかけた。
「誰かと、連絡はとれましたか?」
柏原は、役者のような流し目で私の携帯を見た。
「竜司と、麗香から電話がきたわ……」
「そうですか。お二人共、心配されていたでしょう」
感情のこもらない、抑揚のないトーンの声。
「竜司は、ここに来るって言ってたわ」
「それは、不可能でしょう。いくら竜司様でも、ここは発見できないはずだ」
カチカチと音がして、柏原はカッターで器用に荷物の紐を切り、厚紙を裂く。