解ける螺旋
本当は健太郎に駆け寄りたかった。
私の為に先生に掴み掛ってくれた事が嬉しかったのに。
私はあまりに冷酷な先生の表情に、足を動かす事も出来なかった。


――また。


あの時私を見た瞳と同じ。


酷い事をしてるのは先生なのに。
健太郎を見下ろしている先生は辛そうで、苦しそうで、とても悲しそうで。
まるで先生の方が傷付けられたみたいな瞳――


私は思わず口を両手で塞いだ。


あの時も先生は私を抱きながらそんな瞳をした。
私はそれを見つけて、聞きたかったんだ。
どうしてそんな目をするの、って。
どうして先生が泣きそうなの、って―――


健太郎から手を離した先生は、苛立ちを抑える様にすっと表情を隠して、健太郎に背を向けて大股で歩き出した。
私はその背中をただ見送るしか出来ない。


そして座り込んだままうなだれている健太郎に駆け寄る事も出来ないまま。
ただ先生のあの瞳だけを思い浮かべていた。
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