解ける螺旋
――お兄ちゃん。


私の口は、確かにそういう形に動いた。


必死に伸ばす手。
だけど、届かずに力を失う。
奈月!? と叫ぶ健太郎の声だけが聞こえる。


どうして、と言う声を殺して目を見開いて、私はその場にがっくりと膝をついた。


健太郎の足音が聞こえる。
だけど私はもう一度手を伸ばそうとして、そこにもう誰もいないことに気付く。


霞む視界に映るのは、真っ赤に染まったまま、伸ばした自分の手。
お腹の辺りが燃える様に熱いことだけを感じた。
奈月、奈月、と、身体を支えてくれる小さな健太郎が、泣きながら私を呼んでいた。


そんな健太郎に、私は口から血を流しながら必死に告げようとする。


――健太郎、あのね。
あのお兄ちゃんがまた来てくれたよ。
あの時の、優しくてカッコいいお兄ちゃんが――
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