解ける螺旋
「……っ! どうしてここに……」


まさにこれから会いに行こうと思っていた人物を前に、みっともなくうろたえてしまう。
そんな俺の様子を見て、奈月は俺に一歩近寄った。


「どうしてって。
宣言したじゃないですか。
絶対に傍にいる、今度こそ好きだって言わせてみせるって」


奈月はそう言うと、俺の目の前に立つ。


「……リベンジ出来る日が来るの、ずっと待ってたんですよ」


一歩近付かれただけでも、奈月をすごく近くに感じた。
それでもこの事態が飲み込めない。
俺の目の前にいる彼女は、結城の婚約者だ。
なのになんでこんな笑みを浮かべるているのか、さっぱり理解出来ない。


「ふざけるなよ。
君は結城と……。結城と婚約したんだろ。
なのに……」


戸惑う俺に、奈月はああ、と呟いて、俺を見上げて来る。


「もしかして、心配したんですか?」

「……っ! だ、誰がっ。別に俺は。
……ただ戻ってすぐ、真美からその話を聞いて」

「つまり、信じてなかったんですよね」

「奈月」


俺の戸惑いなど気にせず、奈月はドアに手を伸ばした。
そして俺が焦って開けられなかった鍵を、いとも簡単に開けてしまう。


「そんな話も出てるんですけどね、あれは親同士が勝手に盛り上がってるだけ。
私も健太郎も拒否してるんだから、そのうち立ち消えます」


そんな事を言いながら奈月はドアを開けて、まるで押し入る様に俺の身体ごと玄関に入る。


「……ほとんど強盗だな」


溜め息混じりに呟いた俺に、奈月はフフッと笑った。
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