絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 そう勝手に判断すると、携帯を取り出し、ユーリの番号を履歴から呼び出してかけた。もしこれで出なかったら、それまでってことで。と考えていたのに、5回のコールで彼は出た。
「もしもし?」
『もしもしー。今どこにいんの? もう来てる?』
「ごめん、全然行けそうにない」
『えー! マジでー!?』
「うん、大雨でびしょびしょで……」
『え? ……あぁ。待って、あっ……』
 後ろの雑音が聞こえたかと思うと、相手が変わった。
『もしもし?』
「あ……ごめんなさい。ちょっと……」
『はいはーい?』
 何の説明もいらない。レイジだ。
「あ、もしもし。香月ですが」
『分かるよ(笑)。どうしたの? いつシンデレラが馬車で来るのかと王子様は待ってるんだけど』
 かぼちゃの馬車がありません、と言ってほしいのだろうか?
「あっ、はあ……それがあの、今びしょびしょで……」
『どこが?』
「どこって全身です。あの、大雨で……」
『いやらしいなぁ(笑)』
「ということですので、切りますね」
 酔っているんだとは思う。そりゃ、自身の誕生パーティですからね。
『来れそうにない?』
「あの、またあの後日、その、何かしますので今日は……」
『うーん。納得いかないなぁ』
「とてもとても……今びしょびしょで……あの、今からお風呂入って準備したら、行けないこともないですけど」
 って嘘もついた。だって、なんか今更行くの面倒じゃん……。
『じゃぁ、着替えてから来て』
「道が分かりません」
『来る気ないでしょ?』
「後日何かします、必ず」
『うーん…………』
 また向こうで雑音がしたな、と思ったら、相手がユーリに変わっていた。
「もしもし? 私、びしょ濡れで風邪ひきそうだから、今日やめるね」
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