絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
ルームシェアマンション
ルームシェアマンションとは、一戸を定員3人でシェアするための専用マンションである。

 管理人は24時間在住、監視カメラは年中作動、もちろんオートロック。家賃50万円の高層マンションの用途は様々。

 金銭に困った若者から、夫にナイショで退屈を凌ぎたいセレブ主婦、他人を嫌って兄弟で実家同様に暮らす者や、1人が寂しいキャバ嬢、一般オーエルはもちろん、別荘同様で使う芸能人まで。

 とにかく、3人で50万をどのようにでもシェアすれば、高級マンションに住めるというだけあって、人気は高い。が、住人の出入りは激しい。
 
 ただ、新たには誰でも入れるわけではない。管理人の面接があって、元々住んでいる人の了承があって、初めて、新たに入居することができるのだが、なかなかうまくはいかない。……らしい。
 
 そんなマンションが話題になって何棟も建設が進んでいるらしかったが、実家暮らしの香月には全く関係のない話であり、それらは全てテレビのワイドショーからの情報にすぎなかった。

 香月愛、24才独身、家電量販店に入社して2年目。

 父は地元総合病院の院長、母は父より10も若い継母。
 
 実母は香月が生まれてすぐに病気で亡くなり、手伝いの乳母に育てられた。

 父が再婚したのは8歳の時。継母は、18歳と4歳の連れ子と共に、香月家に入り込んで来たのであった。

 黒髪が長い、色白のくねくねした継母を、どうも好きにはなれなかったが、幸いにも兄弟の仲はうまくいった。

 兄は結局、香月家では住まずすぐに大学の近くで一人暮らしを始め、それが三人の仲を円滑にしたのかもしれなかった。

 まあ、なに不自由ないといえばない。実母はいないが、そんなことに感傷的になることもなかったし、家はあるし、仕事は楽しいし、それなりに友達もいるし。

 特に、今の香月の中で大半を占めているのが、仕事であった。

 職場は同じ年頃の人が多く、頼れる上司、頼れる後輩、頼れる客によって、今日も笑顔で「いらっしゃいませ」を言える。
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