優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――謙信は天下に興味がないとは言いながらもその動向には目を離せないものがあった。


…それにあれから数時間。

桃と顔を合わせるのが何だか恥ずかしく、互いに部屋に篭ったままで、幸村が桃の相手をしているようだったがそれは別に気にならない。


「…何故俺は急いてしまうのだ?」


書斎にしている部屋で自問していると、外から政宗の怒声が聞こえた。


「何故貴公と出かけねばならぬ!俺は行かぬぞ!」


「え?桃姫も誘おうと思ってたのに?」


聞き捨てならない展開に外に出ると、騎乗したままの政宗と小十郎、謙信と兼続が互いの言い分を主張している。


「姫も行くのか?な、ならば俺も行ってやってもいいぞ」


「別に来なくてもいいけど話だけはしておかなくちゃと思ってね。あ、三成はどうする?」


一国一城の大物二人が揃ってこちらを見たので、三成は表情を変えないまま謙信を問い質す。


「桃をどこへ誘うおつもりなのか?」


しかも何故かクロに乗っているので軽く睨むとすまなそうに鼻を鳴らす。


謙信は真夏なのに汗ひとつかかずに極上の笑顔で笑いかけた。


「近くの山に綺麗な泉があったから涼みに行こうと思ってね。駄目?」


駄目も何もまだ肝心の桃の返事がまだで、庭先で巻き起こる騒ぎに桃が部屋から顔を出した。


「わっ、何してるの?」


「姫、近くにとても綺麗な泉があったよ。今日は暑いし涼みに行こうよ」


あたかも自然に誘った謙信に桃が目を輝かせた。


「え、行く行く!泳げるくらいおっきい?」


「うん、おっきいよ。…泳ぐの?」


――実は桃が元の世界から持ってきたバッグの中には、体育の授業で使った水着が入っていた。

どんな水着でも自由だったので、お気に入りの白のビキニで泳げるとなると嬉しくて早速立ち上がる。


「もちろん泳ぐよ!私速いんだよー!…あれ?みんなどうしたの?」


――各自色々な想像で頭がいっぱいになっていて、 皆が慌てて表情を引き締める。


「い、いや、何でもない。俺も行く」


三成がそう言うと桃が少し嬉しそうに笑った。


謙信も笑った。


「じゃあ私も泳ごうかな」

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