優しい手①~戦国:石田三成~【完】
不気味な笑みを浮かべる秀吉に不満を露わにした表情で三成が後ろを歩き、桃の手を引っ張る。


「ふふふふふ…おぬしが女子の手を引っ張るなど…青天の霹靂じゃのう!」


「…私をからかうと後でどんな目に遭うか想像できませぬか?」


「む!?い、いや、からかってなどおらん!今日はあれじゃろ?祝言をいつにするか儂に相談しに来たんじゃろ?」


「違います。明日出立するのでそのご報告と、茶々殿にお会いしに参上いたしました」


――話しているうちに茶々の部屋に着き、秀吉が声もかけずに襖を開けると…


そこには背筋を正して正座した麗しい茶々がにっこりお微笑んでいた。


「桃姫と…三成、尾張を出るそうですね。…寂しくなるわ」


…その台詞はどこか三成に言った風に感じられて、桃は遥か上の三成の顔を見上げた。


だが、三成の顔には何の色の感情も浮かんでおらず、桃の手を離すと茶々の隣に座った秀吉の前に座った。

桃も茶々の前に座ると、秀吉が饅頭を頬張りながら持論を口にする。


「茶々、そなたからも言うてくれ。尾張を出る前に祝言を上げていくように、と!」


「…祝言…?」


――声色が下がる。

それを敏感に感じ取った桃はまた隣の三成を見た。

伏し目がちに自身の膝を見つめている三成の顔を覗き込むと、小さく笑ってくれた。


「…とのことだ。どうする桃」


「えっ!祝言って…」


「三成の妻となれば茶々も遊び相手ができて嬉しいじゃろ?どうじゃ桃姫、祝言を上げぬか?」


とんとん拍子に勝手に話を進めていく秀吉に対して三成はまた丁寧に頭を下げた。


「秀吉様、まずは桃の親御を探してからです。私はそのために越後へと行くのですから」


黙りこくった茶々が気になり、桃は座ったまま茶々の隣に移動する。

無表情に近かった顔にようやく笑みが上り、ほっとすると緊張のあまり急にお手洗いに行きたくなった桃が席を立った。


「桃?」


「あの…私…お手洗いに…」


「よいよい、儂が案内してやる。おぬしたちはここに居ってよいぞ」


「秀吉さん、ありがとう!」


――この後桃と三成の関係が微妙に変わる出来事が起こってしまう。
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