優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「うひゃあっ!」


突然水の中に落ちた桃は何が起きたのかわからずに、ずぶぬれのまましばらくそこから動けなかった。


…目の前の景色は…家ではない。


「ここ…どこ?」


ギギギ、と首をぎこちなく動かして回りを確かめてみる。


大きな平屋の屋敷だ。
庭も管理が行き届いていて綺麗で…どうやらその庭の池らしい。


「やっぱり…やっぱりここって…!」


「何者だ」


――静かに声が降って来た。


桃は…低く綺麗な声のした方を見上げた。



「貴様…物の怪の類か?」



そこには…桃が想像したその時代ではあり得ない、髪の短い男が冷ややかな瞳をし刀を突きつけてきた。

色が白く、真一文字に結ばれた薄い唇からはこの男の清廉潔白さが窺える。


「あ…」


「我が屋敷にどのようにして忍び込んだ?間者か?」


「やっぱり…やっぱりここは戦国時代なんだ!!」


――刀を突き付けられていることよりも、はじめて時空を超えたことに興奮し、音を立てて池から立ち上がる。

刀はそのまま桃の首に定まったまま上へと動き、男は訝しげに瞳を鋭くした。


「戦国時代…だと?今は安土桃山時代。そなたは一体…」


「あなたは誰?ここはどのへん!?」


興奮しっぱなしの桃はまたしても男の質問を無視してキラキラとした瞳で男ににじり寄った。

様子を見定めていた回りの者たちが刀を抜いて走り寄ろうとすると、男は手を少し上げてそれを止めた。



「我が名は石田三成。豊臣秀吉様にお仕えする家臣の一人。さあ、そなたにも名乗ってもらおう」



桃があまりにも無邪気で警戒心が全くないので、三成は刀を鞘に収めた。
そして桃は…手にスーパーの袋を提げていたことに気がついて、それを三成に見せた。


「私は桃。このネックレスのせいで過去に来ちゃったの。石田三成っていったら…関ヶ原の戦いで…」


「…関ヶ原?」


鋭く三成の瞳が光り、胸元で光るネックレスを力ずくで奪い取った。


「あっ、それがないと…」


「来い。そなたを返すわけにはゆかぬ」


あっという間に桃は包囲され、屋敷へと連れ込まれた。
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