優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「軒猿からの報告はまだないの?」


――三成を見つけられないまま3ヶ月が経とうとしていて、その間に桃はみるみる痩せていき、毘沙門堂と自室の行き来のみにしか顔を見せなくなっていた。


…どんなに励ましても、言葉が届かない。


あんなにきらきらしていた黒瞳は濁り、まるで傀儡のようで、食べようとしない桃に無理矢理口移しで食べさせたこともある。


ただ…



「謙信さん…一緒に寝て…」


「…おいで」



寝る時はいつもと同じく、共に眠る。


「三成さ、ん……」


夢現に何度も三成の名を呼んで、眠りながら泣く…


そんな桃を抱きしめて離さずに毎夜口づけを交わすこともなく、ただ共に眠る――


さすがの謙信もそんな桃の様子には心を痛めていて、つい兼続にきつい口調で報告を促した。


「今だ幸村と軒猿からの連絡はございませぬ。殿…三成はもう…」


歯を食いしばって俯く兼続の拳は震えていて、今は薬湯で無理矢理眠らせている隣の部屋の桃を想った。


「日増しにやつれていくんだ。…私が出向いて…」


「なりませぬ。殿…いつ織田や徳川が攻めてきてもおかしくはないのです。ここは辛抱を」


「桃が一番つらいのはわかっているけれど…もう数ヶ月経つ。私は…桃を正室に迎えるよ」


――とうとう謙信が決断をした。


このまま生死もわからない三成を待ち続けるのは…不毛だ。


一刻も早く三成を忘れさせて、一刻も早く、自分だけを見てほしい。


…いたく真面目な顔をして瞳を閉じ、

ここ数ヶ月、謙信も悩み抜いていたことを知っている兼続は、頭を下げ…静かに退出した。


――一人部屋で姿勢を正して毘沙門へ祈りを捧げ、三成の所在を何度も問うたが…


応えてくれない。


「そんな簡単に死ぬ男じゃない。桃…そうだよね」


隣の桃の部屋に入って枕元に座り、

元々細かった身体がさらに細くなっていて、そんな頬に触れて、呼び掛けた。



「桃…私のものになりなさい。三成のことはもう諦めて…」


「みつ、なり……さ…」



――また名が漏れた。


いたたまれなくなって、部屋を出た。
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