優しい手①~戦国:石田三成~【完】
意識のない三成の胸についた太刀傷は…致命傷だった。


普段気を緩めることのない男なだけに、このように太刀傷を浴びることなど誰が予想できただろうか?


――すでに仮死状態で、出血こそ止まったが…麻酔薬が足りず、薬師は三成の傷口に酒を吹きかけると、痛みで身体が大きく引きつった。


「三成!」


「生きている証拠です。殿…ここからはご覧にならない方が…」


「いや、ならぬぞ。儂は三成から離れん!」


同じ年頃の薬師が躊躇しつつも箱から取り出したのは…糸と、針だった。


「縫合いたします。麻酔薬がありませぬ故、苦痛の声が漏れましょう。殿、これを」


薬師が手渡したのは、分厚い布の束。


秀吉はそれを受け取って三成の閉じた口を無理矢理こじ開けると、布を噛ませた。


「誰か手の空いている方に協力を。…暴れますぞ」


「拙者が」


――襖の外に控えていた幸村が事の成り行きを察知して中へと入って来た。


「拙者が三成殿の手足を封じます。その間に縫合を」


「あなた一人では塞ぎ込めますまい。この官兵衛は脚を封じます」


全員で三成を羽交い絞めにして…そして針に糸を通し…着手した。


「…っ、ん、ぅ…っ!」


「しばしの我慢です!桃姫がお待ちしております!」


その幸村に呼び掛けに、一瞬三成の瞳がかっと見開いた。


「おお…、三成殿…!」


「…………」


だがその後、あまりの激痛に失神し、身体から力が抜けた。


「すぐにまた痛みで目覚めます。どうかそのまま」


「三成…お前は我が子同様ぞ。戻って来い、儂の声を聴いて、そちらに向かって走るのじゃ!」


秀吉の声が涙声になった。


幼い頃の三成に才気を見出し、子飼いだと何と言われようとも傍に置いて育ててきた。

清正や正則よりも遥かに慈しんで、傍に置いてきた。


「ぅ…っ、……っ!ぅ…!」


苦痛の声が漏れる。

麻酔薬なしの縫合に身体は絶えず痙攣して、幸村たちはそれを全力で抑え込んだ。


「三成殿、あなたに何かあれば桃姫が悲しみます!」


長い睫毛が何度も震え、その瞳からは苦痛からではない涙が伝った。
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